ベトナム、特にホーチミン市は、日本発のフィットネス・ヘルスケアビジネスモデルにとって非常に有望な市場となっています。しかし、外資100%のジムを合法的に開業・運営するためには、単に会社を設立するだけでなく、スポーツ分野の専門的な要件をクリアしなければなりません。
本稿では、ホーチミン市において投資規模50億ベトナムドンの外資系フィットネスジム設立を支援した実際の事例をケーススタディとして紹介します。投資登録証明書(IRC)の申請から、法人設立、資本金口座(DICA)の開設、そして営業許可(サブライセンス)の取得条件クリアに至るまで、投資家が事前に準備すべき具体的なステップを分かりやすく解説します。

1. 外資系フィットネスジム設立において入念な準備が必要とされる理由
一般的なサービス業の多くでは、海外投資家は法人設立手続きの完了後、すぐに営業を開始できます。しかし、インストラクター常駐型のフィットネスジムモデルにおいては、企業登録証明書(ERC)の取得は最初のステップに過ぎません。
企業は、事業に関する専門的な要件(特に施設・設備、安全基準、専門人員に関する条件)を満たす必要があります。そのため、早期に準備を進めなければ、物件の賃貸契約や営業許可(サブライセンス)の申請、あるいは実地審査の段階で手続きが遅れる恐れがあります。
もう一つの重要なポイントは、事業範囲を明確に定義することです。フィットネスジムはスポーツ分野に属するため、医療、理学療法、リハビリテーション、メディカルスパといったサービスと混同されるのを防ぐ必要があります。申請書類の中に誤解を招きやすい用語が含まれていると、審査が長期化したり、追加の説明を求められたりする原因となります。
2. プロジェクトの概要
本ケーススタディにおける投資家は、ホーチミン市内に本格的なフィットネスジムを新設・運営することを目的とした日本法人です。進出形態としては、日本企業が定款資本金の100%を出資する「一人有限責任会社」を採用しています。
登録予定の事業種目はスポーツ活動業に特化しており、具体的にはインストラクター常駐型のジム運営サービス(医療サービスは除外)となります。このように事業範囲をあらかじめ明確に定義しておくことで、投資申請書類の透明性が高まり、管轄官庁に医療行為やリハビリテーション分野と混同されるリスクを最小限に抑えることができます。
3. 申請書類提出前に準備すべき法的事項
3.1. 物件(ロケーション)の事前審査
物件は、投資申請書類の審査や実際のジム運営において極めて重要な要素です。正式な賃貸借契約を締結する前に、投資家は以下の項目が要件に適合しているかを確認する必要があります。
・物件の使用目的および商業・サービス機能
・貸主の法的書類(所有権や賃貸権の証明など)
・安全基準、消防対策(PCCC)、避難経路、衛生環境
・付帯設備(換気・照明システムなど)の条件
また、賃貸借契約書には、賃貸期間やジム運営目的での物件使用権に加え、企業が各種法的手続きを行う際に必要な書類を貸主が提供する義務についても明記しておくべきです。
3.2. レイアウトの作成および施設・設備条件の準備
フィットネスジムには、適切な床面積だけでなく、安全な機材配置、合理的なトレーニングエリアのレイアウト、換気・照明システム、更衣室、トイレなど、利用者の安全と快適性を確保するための環境整備が求められます。 初期段階でレイアウトを確定しておくことで、賃貸借契約の締結や機材の搬入後に、設計を何度も修正するような事態を回避できます。
3.3. トレーナーの学位・資格の確認
ジムがトレーニング指導やパーソナルトレーニングサービスを提供する場合、企業はスタッフの適切な資格証明書類を準備する必要があります。トレーナーは、規定に従ったスポーツ専門分野の学位、資格、または専門証明書を保持していなければなりません。 特に海外で取得した学位や資格については、ベトナム国内での有効性を早期に確認し、必要に応じて翻訳公証や専門経験を証明する書類の準備を進める必要があります。

4. 日本の投資家に対するサポートフロー
本プロジェクトにおける支援プロセスは、主に以下の段階に沿って展開されました。
【第1段階】日本国内での書類準備
投資家は、日本企業の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)、決算書、投資決議書、代表者情報、およびその他関連する法的書類を準備する必要があります。海外で発行された書類は、原則として領事認証を取得し、ベトナム語に翻訳・公証しなければなりません。
【第2段階】投資登録証明書(IRC)の申請・取得
IRCの申請書類には、プロジェクトの目的、投資資本金、実施場所、運営期間、および事業範囲を明記します。フィットネスジムの場合、事業内容の記述はスポーツサービスに特化させ、医療や治療に関連する用語の不必要な使用は避けるべきです。
【第3段階】法人設立および企業登録証明書(ERC)の取得
IRCが交付された後、投資家はベトナム現地での法人設立手続きを行います。これにより、企業登録証明書(ERC)、税務コード、および法人格を取得します。
【第4段階】資本金口座(DICA)の開設と期限内の出資
外資系企業は、日本からの出資金を受け入れるために、直接投資資本金口座(DICA)を開設しなければなりません。将来的な罰則リスクや、日本への利益送金におけるトラブルを回避するため、出資は必ず定められた期限内に、指定の口座へ正確に送金(出資)を完了させる必要があります。
【第5段階】設立後の行政手続きの完了
法人設立後は、初期税務申告、電子署名(USBトークン)の導入、電子インボイスの発行設定、決済口座の開設、看板の設置、および実際の運営に向けた実務書類の準備などの手続きを進めることになります。
【第6段階】ジム運営開始に向けた専門手続きの実施
正式にオープンして会員を受け入れる前に、企業は施設・設備条件、人員配置、導入機材の再点検を行い、規定に従って管轄官庁(スポーツ関連当局など)での専門手続き(営業許可の取得)を完了させることが必須となります。
5. 日系企業が留意すべき3つの教訓
5.1. フィットネスサービスと医療サービスの混同回避
日本における多くのフィットネスモデルでは、身体の機能回復、ヘルスケア、あるいは治療的な要素が組み込まれている場合があります。しかし、ベトナムで事業を展開する際、企業はスポーツサービスと医療サービスを明確に区別しなければなりません。 医療機関としてのライセンス要件を満たしていない場合は、投資申請書類、ウェブサイト、パンフレット、および広告資料において、「治療」「理学療法」「機能回復(リハビリテーション)」といった用語の使用を厳格に避けるべきです。
5.2. DICAを通じた出資進捗の厳格な管理
法人設立後、投資家は直接投資資本金口座(DICA)を開設し、海外からの出資金を必ずこの指定口座へ送金する必要があります。定められた期限内に正しい方法で出資を行い、銀行が発行する送金証明書などの関連書類をすべて適切に保管・管理することが、FDIプロジェクトのコンプライアンスを遵守する上で極めて重要です。
5.3. 法的手続きと運営条件の並行確認
投資家は、法人の設立が完了するのを待ってから、物件、レイアウト、消防対策、導入機材、およびトレーナーの資格確認などを後回しに進めるべきではありません。グランドオープン(開業)の遅延を回避するためには、これらの実務的な運営条件の精査を、プロジェクトの初期準備段階から並行して進めることが強く推奨されます。
6. 結論
ベトナムにおける外資100%のフィットネスジム設立は、単なる法人設立手続きにとどまりません。投資家は、FDIプロジェクト申請書類、店舗物件、施設・設備条件、専門スタッフの配置、資本金口座の管理、ならびにスポーツ管轄官庁での専門手続きを並行して準備する必要があります。
日本の投資家にとって、初期段階から正しく準備を進めることは、審査期間の短縮、書類の追加提出や修正要求のリスク軽減、そして計画通りのジム開業を実現するために極めて重要です。


ホーチミン支店コンサルタント
ダン・バオ・ファン
専門分野
- 投資
- ビジネス・貿易
- M&Aコンサルティング
積年の経験 : 10年以上
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