近年、ベトナムはアジアにおける主要な製造業の投資先として大きな注目を集めています。多くの日本企業が、サプライチェーンの多様化、生産コストの最適化、そして自由貿易協定(FTA)の活用を目指し、ベトナムへの事業拡大を積極的に進めています。
ベトナムは、東南アジアの中心に位置する恵まれた地理的条件をはじめ、若く豊富な労働力、競争力のある運営コスト、安定した政治環境、整備された工業団地、そして主要市場との広範なFTAネットワークなど、数多くの強みを備えています。
しかし、ベトナムでの工場設立を成功させるには、法的手続きや投資要件、環境基準、労働規制などを十分に理解する必要があります。本稿では、ベトナムにおける工場設立を計画している製造業の企業が、網羅的かつ正確な情報を把握し、的確な意思決定を行えるよう徹底解説します。

1. ベトナムにおける工場立地の選定
工場立地の選定(投資先の選択)は、事業の生産効率や物流効率に直結する非常に重要な要素です。ベトナムの主な地域特性は以下の通りです。
| 地域 | 主な進出エリア | 適した産業 | 特徴・メリット |
|---|---|---|---|
| 北部 | バクニン、ハイフォン、フンイエン、クアンニン | 電子機器、ハイテック、自動車部品、精密機械部品 | ・中国と国境を接しており、東アジアのサプライチェーン構築に有利 ・多くの日本企業が集積 |
| 南部 | ビンズオン、ドンナイ、バリア・ブンタウ | 輸出産業、食品加工、化学品、物流・ロジスティクス | ・港湾インフラが高度に充実 ・大規模な労働市場と、成熟したサプライチェーン網 |
2. 日本企業によるベトナムにおける工場設立プロセス
ステップ1:立地調査と選定
進出企業は、以下の項目を多角的に評価・検討する必要があります。
・土地またはレンタル工場の賃貸料
・輸送インフラ(港湾・空港・高速道路へのアクセス)
・労働力の確保(質と量)
・投資優遇税制などのメリット
・サプライチェーンの接続性
💡 注記: 大規模な製造プロジェクト、広大な土地利用を伴うプロジェクト、環境への影響が大きいプロジェクト、または専門性の高い特定産業に属するプロジェクトは、投資登録証明書(IRC)の申請前に「投資方針承認(Investment Policy Approval)」の取得が必要となる場合があります。立地調査の段階で、自社のプロジェクトがこの条件に該当するか必ず確認してください。
ステップ2:適切な投資手続きの実施
外資系企業による工場建設・設立プロジェクトでは、通常、投資登録証明書(IRC)の申請をはじめとする、現行法に則った関連手続きを進める必要があります。最新の規制動向により、投資モデル(形態)によってはIRCや企業登録証明書(ERC)の手続きがより柔軟化・変更される可能性もあるため、実務の際には最新のアプローチを確認することが重要です。
一般的な提出書類は以下の通りです。
・投資プロジェクト提案書
・投資家の財務能力証明書(財務諸表など)
・投資家(法人・個人)の身分証明情報
・土地(または工場)の原則合意書/賃貸借契約案
ステップ3:企業登録証明書(ERC)の取得
IRCの取得後、企業登録証明書(ERC)を申請・取得します。これにより、ベトナム国内での法人が正式に設立され、事業運営を行う法的地位が与えられます。
ステップ4:土地または工場の賃貸借契約の締結
契約時には、以下の条件を慎重に精査する必要があります。
・賃貸期間および更新条件
・管理費やインフラ利用料などの追加費用
・契約譲渡(サブリース)に関する条件
・工場の建設および改修に関する規制
なお、土地や工場の賃貸借手続きは、通常以下の2段階で進められます。
1. 予備的合意(MOU等): 投資申請書類(IRC)作成のための用地の仮確保
2. 本契約の締結: 法人(ERC)設立後、関連する法的要件を満たした上での正式な賃貸借契約の締結
ステップ5:専門的な行政手続きの完了
生産規模や業種に応じて、操業開始前に各種の専門的な行政手続きを完了させる必要があります。具体的には、環境影響評価(EIA)の承認や環境許可・登録などの「環境手続き」、消防設計の審査・承認などの「防火安全手続き」、および必要に応じた「建設許可」の取得が含まれます。また、労働安全衛生法に基づく各種義務(安全研修の実施や規定設備の点検)の履行も不可欠です。
ステップ6:機械・設備の輸入と設置
生産用機械の搬入にあたっては、以下の点に留意が必要です。
・機械の耐用年数(製造年数)に関する規制
・法定の品質検査および通関手続き
・投資優遇プロジェクトに対する輸入税免除の適用有無
💡 中古機械の輸入に関する注意点: 中古の機械設備を輸入する場合、首相決定第18/2019/QD-TTgに基づき、設備の耐用年数(原則として製造から10年以内であること)、技術基準、直接的な生産活動への使用目的、および必要に応じた検査書類の提出など、非常に厳格な輸入条件をクリアする必要があります。
ステップ7:竣工検査(受入試験)の完了と操業開始
正式なライン稼働(生産開始)の前に、以下の項目について行政機関による竣工検査(受入試験)を完了し、正式な承認を得る必要があります。
・防火安全(消防検査の合格)
・環境保護施設(排水処理施設など)の確認と承認
・建築物および技術インフラの竣工確認
3. ベトナムにおける工場設立において留意すべき重要な法的要件
環境規制
工場の規模、生産能力、製造業種に応じて、以下の対応が求められる場合があります。
・環境影響評価(EIA)の実施と承認取得
・環境許可(Environmental License)の取得
・適切な廃水処理システムの構築
・産業排出物および廃棄物の厳格な管理
企業は、建設や試運転を開始するための必須条件として、計画段階から自社のプロジェクトがどの「環境リスクグループ(環境分類)」に属するかを確認・特定する必要があります。これらの要件を遵守しない場合、重い行政処分や操業停止につながるリスクがあります。
労働規制
ベトナムにおける工場運営では、人事・労務面において以下の事項を遵守する必要があります。
・労働法に基づく適法な労働契約の締結
・従業員の社会保険料・健康保険料等の適切な納付
・法定労働時間および残業時間に関する規制の遵守
・労働安全衛生の確保
工場設立の初期段階から現地の法令に準拠した適切な労務管理体制を構築することで、操業後の法的リスクや労使トラブルを最小限に抑えることができます。

4. 日本企業向け投資優遇措置
投資優遇措置は、すべての製造プロジェクトに自動的に適用されるわけではありません。企業は、自社のプロジェクトが「奨励分野」「優遇地域(経済特区やハイテクパーク等)」に該当するか、あるいは技術水準、裾野産業(サポーティングインダストリー)、資本規模などの基準を満たしているかを確認する必要があります。
ベトナム政府は、特に以下の分野への投資を強く奨励しています。
・ハイテク産業
・エレクトロニクス(電子機器)
・クリーンエネルギー・再生可能エネルギー
・裾野産業(サポーティングインダストリー)
・輸出志向型の製造業
基準を満たす日本企業は、一般的に以下のような優遇措置を享受できます。
法人所得税(CIT)の優遇税率
ベトナムの標準的な法人所得税率は20%ですが、優遇対象となるプロジェクトには、長期間にわたりより低い特例税率(10%や15%など)が適用される場合があります。
免税および減税措置(タックスホリデー)
一定の条件を満たすプロジェクトは、事業初期において以下の優遇措置の対象となります。
・免税期間: 課税所得(利益)が発生した年から一定期間(最大4年間など)の法人所得税免除。
・減税期間: 免税期間終了後、さらに一定期間(最大9年間など)にわたる税率の50%減免。
輸入関税の免除
プロジェクトが税法で定められた優遇条件を満たす場合、固定資産を形成するための機械設備や、特定の原材料・部材に対して輸入関税が免除される場合があります。この優遇措置を適用するためには、輸入を実行する前に税関にて「免税対象リスト(マスターリスト)」の登録手続きを完了させておく必要があります。
5. 日本企業がベトナムにおける工場設立で成功するためのポイント
ベトナムにおける工場設立を円滑に進め、操業後のビジネスを成功に導くために、日本企業が留意すべき重要なポイントは以下の通りです。
・事前の徹底的な市場調査の実施: サプライチェーンの現状や競合動向の把握
・最適な工業団地の選定: 自社の業種、製造プロセス、物流インフラに適した立地の絞り込み
・専門家によるリーガルチェック(法的デューデリジェンス)の実施: 法的トラブルの未然防止
・実績のある専門コンサルティング会社との連携: 現地手続きのスピードアップと確実性の担保
・長期的な人材採用・育成戦略の策定: 優秀なローカル人材の確保と定着率の向上
・最新の投資優遇措置(インセンティブ)の調査と活用: 投資コストの最適化
まとめ
グローバルサプライチェーンの再構築が加速する中、ベトナムへの工場設立は、多くの日本企業にとって極めて有力な戦略的選択肢(ベトナムへの事業拡大)となっています。恵まれた地理等条件、若く豊富な労働力、近代的な工業団地インフラ、そして政府による魅力的な投資優遇政策など、ベトナムは製造業の投資先として依然として高いポテンシャルを秘めています。
しかし、プロジェクトを効率的に、かつコンプライアンス(法令遵守)に則って進めるためには、用地調査や投資許可申請から実際の生産開始に至るまで、各フェーズでの徹底した事前準備が欠かせません。ベトナム現地の法規制や実務に精通した経験豊富なコンサルティング会社をパートナーに迎えることで、進出リスクを最小限に抑え、立ち上げまでの期間を大幅に短縮することが可能となります。
FAQ(よくある質問)
Q1. 日本企業はベトナムで土地を所有して工場を建設できますか?
A1. いいえ、外資系企業(外国投資家)がベトナム国内の土地を「所有」することは認められていません。通常は法令に基づき、工業団地や国から長期リース(土地使用権の取得)の形で土地を借り受けて工場を建設することになります。
Q2. ベトナムにおける工場設立にはどれくらいの期間がかかりますか?
A2. レンタル工場(既成工場)をリースして進出する場合、通常6~9ヶ月ほどで操業可能です。一方、土地をリースして自社で工場をゼロから建設する場合は、各種許認可の取得や建設期間を含め、12~18ヶ月以上かかるケースが一般的です。
Q3. 日本企業がベトナムへ進出する際、どのような投資優遇措置がありますか?
A3. 投資する業種や地域(工業団地や経済特区など)によって異なりますが、法人所得税の優遇税率の適用、免税・減税措置(タックスホリデー)、ならびに生産設備として使用する特定の機械・資材に対する輸入関税の免除などを享受することができます。
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ホーチミン支店コンサルタント
ダン・バオ・ファン
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