ベトナムでの小売展開において、「会社設立」と「事業開始」は同義ではありません。法人の設立手続きに加え、ビジネスモデル、取扱商品、立地、そして稼働前の諸条件を総合的に検討する必要があります。
本ケーススタディでは、ホーチミン市でのコンビニエンスストアや小型スーパーの展開を目的とし、100%外資系企業の設立を計画している日本企業に対する、Green Sun Vietnamのコンサルティングプロジェクトをご紹介します。
単なる会社設立の申請書類作成に留まらず、本プロジェクトでは実際の事業活動を起点とした分析を行います。「何を、どこで、どのように販売し、店舗稼働までにどのような準備が必要か」という、投資段階から実運用までのプロセスを明確に示します。

1. ケーススタディ概要:ベトナムでの小売店舗展開を目指す日本企業
本プロジェクトのクライアントは日本法人であり、ベトナムへの直接投資を計画しています。初期段階におけるビジネスモデルの概要は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投資家 | 日本法人 |
| 投資形態 | 日本側投資家による100%出資企業 |
| 想定される法人形態 | 一人有限責任会社(会社法に基づく有限会社) |
| 所在地 | ホーチミン市 |
| ビジネスモデル | コンビニエンスストアまたは小型スーパー |
| 商品グループ | 包装食品、飲料、菓子、日用雑貨、および一般消費財 |
| 展開の方向性 | オンライン販売チャネルの拡充の可能性あり |
単なる登記手続きの側面から見れば、本件は一般的な「外資系企業の設立案件」に過ぎないように映るかもしれません。しかし、クライアントの真の目的は、単にベトナム国内に法人を設立することではありません。設立後の会社が、事業計画に沿った小売モデルを円滑に展開できる体制を整えておく必要があります。
そのため、Green Sun Vietnamに課された課題は、会社設立を単なる事務手続きとして捉えるのではなく、設立後の店舗運営を見据えた「投資ストラクチャーの構築」と「手続きのロードマップ策定」を行うことでした。
結果として本プロジェクトでは、投資ストラクチャー、出店場所、取扱商品リスト、そして法人設立後の準備段階に至るまで、多岐にわたる要素を並行かつ総合的に検討することが求められました。
2. 主な課題:会社設立=即時の店舗オープンではない
ベトナムへ進出する外国企業が陥りがちなのが、「会社設立=すぐに店舗をオープンできる」という誤解です。実際には、外資系企業の小売業は「条件付き事業」に該当します。会社設立後も、政令第09/2018/NĐ-CP号に基づく「事業ライセンス」や「小売店舗設置許可」の取得が必須となります(2店舗目以降はエコノミック・ニーズ・テスト(ENT)の審査も発生します)。
2.1. 取扱商品カテゴリが必要手続きに与える影響
企業は、事業開始の初期段階から、取扱予定の商品ポートフォリオを明確にしておく必要があります。本ケーススタディの初期商品は、包装食品、飲料、菓子、日用雑貨、および一般消費財です。しかし、全商品カテゴリに同じ要件が適用されるわけではありません。食品や飲料などの一部商品では、事業展開の前に食品安全に関する政令(第15/2018/NĐ-CP号)に基づく追加条件や専門的な手続きが求められる場合があります。取扱商品を早期に分類・特定しておくことで、適切な事業範囲を設定でき、不要に広範な登記や、オープン直前での計画修正を防ぐことができます。
2.2. 登記と実店舗運営の双方に適した立地選定
コンビニや小型スーパーの場合、店舗の立地は単なる「登記上の所在地(本社・事業所)」ではありません。陳列エリア、在庫スペース、顧客やスタッフの動線、食品の保存エリア、関連する安全基準など、実際の店舗運営に適した物件であるかどうかも総合的に検討する必要があります。適合性を十分に確認せずに賃貸契約や改装投資を進めてしまうと、後から調整費用が発生したり、運営プランの大幅な変更を余儀なくされたりするリスクがあります。
2.3. 初期段階からのビジネスモデルの定義
本ケーススタディの企業では、実店舗での販売だけでなく、オンライン販売チャネル展開の可能性も検討しています。そのため、最初の店舗オープンだけを前提とするのではなく、将来の事業展開も見据えて事業範囲を設計する必要があります。店頭販売、オンライン販売(政令第52/2013/NĐ-CP号に基づく電子商取引ウェブサイトの届出・登録が必須)、倉庫保管、配送といった各要素はすべて、企業の運営体制の構築に大きく影響します。
📝 ポイント:「会社設立にはどのような書類が必要か?」と考え始める前に、まずは以下の3つの軸を明確に定めることが重要です。
・何を売るのか(商品)
・どこで売るのか(立地)
・どのようなモデルで運営するのか(ビジネスモデル)

3. Green Sun Vietnamはどのように設立・運営ロードマップを構築したか?
書類の収集作業から着手するのではなく、Green Sun Vietnamはビジネスモデルを徹底的に分析した上で、実行ロードマップを構築しました。
3.1. ステップ1:投資ストラクチャーの確定
まず、プロジェクトでは以下の基礎的要素を明確にする必要があります。
・投資家
・持株比率
・企業形態
・想定資本金
・法人代表者
・会社の事業範囲
本ケーススタディでは、日本企業が100%出資する「一人有限責任会社」モデルを採用して計画を策定しました。初期段階でストラクチャーを確定させることで、日本側での必要書類の準備とベトナム国内での手続きを、同一のプランに基づいてスムーズに進行させることが可能になります。
3.2. ステップ2:立地および取扱商品の精査
これら2つの要素は、ロードマップ完成前に検討しておくべき重要な事項です。
立地に関しては、単に本社の所在地を決定するだけでなく、実際の店舗モデルに適合しているかを評価することが目的となります。商品に関しては、スムーズに展開できる品目と、追加の検査・許可が必要なカテゴリを識別するため、事前に商品をグループ化しておく必要があります。
このアプローチにより、「必要以上に広範囲の事業範囲を登録してしまう」ことや、逆に「オープン直前になって一部商品に追加の手続きが必要だと判明する」といった事態を回避できます。
3.3. ステップ3:プロジェクト全体のロードマップの構築
ビジネスモデルが明確になった後、ロードマップは主に以下の段階に分割されます。
| 段階 | 主な業務内容 |
|---|---|
| 1 | 投資家、ビジネスモデル、資本金、立地、および取扱商品の確認 |
| 2 | 日本における投資家側書類の準備 |
| 3 | 投資登録手続きの実施 |
| 4 | 企業登録手続きの実施 |
| 5 | 流通・小売活動に必要な手続きの検討および実施 |
| 6 | 資本口座の準備、出資、および設立後の諸手続き |
| 7 | 店舗運営開始前に必要な条件の充足 |
なお、2026年3月1日発効の改正投資法に基づき、市場アクセスの条件を満たす一部のケースでは、外国投資家がIRC(投資登録証明書)の取得前に法人を設立することが可能になりました。ロードマップにはこうした最新動向に基づく各種ライセンス取得や店舗運営手続きも組み込まれています。
重要なのは、個別の手続きを切り離して考えるのではなく、各ステップの依存関係を明確にすることです。初期の立地や商品の選択は、後続の申請範囲や対応条件に直結します。
早期に包括的なロードマップを構築することで、企業は法人設立から店舗稼働までを「統合された一つの投資プロセス」として一元管理できるようになります。
4. 日本企業が会社設立の前後で準備すべき事項とは?
設立準備における作業の多くは、日本側(投資家サイド)が担うことになります。そのため、スケジュールの遅延を防ぐ観点から、日本国内での書類準備と設立後の実務は、初期段階から並行して計画しておく必要があります。
| 段階 | 準備が必要な内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 設立前 | 法人登記証明書 | 投資家の資格確認 |
| 設立前 | 投資決定を示す書類 | 投資の方針およびストラクチャーの明確化 |
| 設立前 | 財務能力を証明する書類 | 投資適格性の審査対応 |
| 設立前 | 委任状または担当者選任文書 | 代表者または申請手続き担当者の確定 |
| 設立後 | 直接投資資本口座および出資計画 | 日本からの送金準備 |
| 設立後 | 会計、インボイス、労務 | 企業運営条件の整備 |
| 店舗オープン前 | 消防(PCCC)、食品安全、商品ラベル、および必要に応じて発生する業法上の条件 | 実店舗のモデルに応じた運営体制の確立 |
日本国内で発行される一部の書類については、ベトナムでの申請書類として使用する前に、適切な形式(公証・領事認証等)での処理が必要となります。したがって、初期段階で日本側の必要書類チェックリストを作成することで、企業は準備時間を主体的に管理し、書類不足による手戻りや遅延といった事態を回避することができます。
同様に、企業登記証明書(ERC)の受領はプロセス全体のゴール(終着点)ではありません。企業は引き続き、資本金に関する手続き、会計処理、および店舗の運営条件の整備を進める必要があります。
📝 留意すべきポイント:
設立前後の作業が同一のロードマップ内で有機的に連携できるよう、会社設立計画は「店舗のオープン計画」と並行して策定することが重要です。
5. ベトナム投資を目指す日本企業がケーススタディから得られる3つの教訓
本プロジェクトのコンサルティングプロセスを通じて、ベトナムでの会社設立および小売事業展開を検討している日本企業にとって、注目すべき3つの教訓が見えてきました。
5.1. 教訓1:書類作成ではなく「ビジネスモデル」から着手する
会社設立手続きは、単なる事務作業ではなく「実際の事業活動」を基盤として進める必要があります。業種、取扱商品、立地、販売チャネルのすべてが、申請書類の範囲やその後の準備ステップに直接影響を与えます。そのため、手続きを開始する前に、まずは「何を売るのか」「どこで売るのか」「どのようなモデルで運営するのか」を明確に定義しておくことが不可欠です。
5.2. 教訓2:多額の資金を投じる前に立地を検証する
立地条件や賃料の面で優れている物件であっても、自社の店舗モデルに最適であるとは限りません。長期の賃貸契約や高額な改装投資を行う前に立地適合性を精査することで、運営上の課題を早期に特定し、後から計画変更を迫られるリスクを大幅に軽減することができます。
5.3. 教訓3:最初の申請手続きを始める前にロードマップを構築する
全体的なロードマップを策定することで、日本側での書類準備から法人設立、そしてベトナム国内での店舗運営条件の整備に至るまでの全工程を事前に見通すことができます。これにより投資家は、業務の順序や相互依存関係を正しく理解し、資本金、立地、関連ライセンスの準備が必要となる適切なタイミングを明確に把握できるようになります。
💡 まとめ:3つの教訓の共通点
ビジネスモデルとロードマップを早期に明確にすればするほど、企業はベトナム投資プロセスにおける「時間」「コスト」、そして「予期せぬトラブル」をより主体的にコントロールすることが可能になります。
6. 結論
本ケーススタディが示す通り、ベトナムでの小売事業展開を目指す日本企業にとって、会社設立は投資プロセス全体の一部に過ぎません。申請書類の作成に着手する前に、ビジネスモデル、取扱商品、立地、および運営計画を綿密に分析する必要があります。初期段階から全体的なロードマップを構築しておくことで、企業は「日本側で何を準備すべきか」「ベトナム側でどのようなステップを踏むべきか」、そして「店舗稼働前に満たすべき条件は何か」を的確に把握できるようになります。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. 日本企業はベトナムで100%外資系企業を設立できますか?
A: はい。業種や投資内容によりますが、日本企業がベトナムにおいて100%外資系企業を設立することは可能です。ただし、実際の実行に移る前に、投資家は事業分野、活動範囲、資本構成、および想定されるビジネスモデルを明確に定義しておく必要があります。
Q2. 会社設立が完了すれば、すぐに小売店舗をオープンできますか?
A: いいえ、会社設立の手続きのみでは開業できません。外国資本による小売プロジェクトの場合、IRC(投資登録証明書)およびERC(企業登記証明書)の取得後も、政令第09/2018/NĐ-CP号に基づく「事業ライセンス」や「小売店舗設置許可」の取得(2店舗目以降の出店では経済ニーズテスト(ENT)の審査も伴います)、ならびに各取扱商品に応じた条件の充足が必須となります。
Q3. 日本企業側ではどのような書類を準備する必要がありますか?
A: プロジェクトのストラクチャーに応じて、法人登記証明書、投資決定を示す書類、財務能力を証明する書類、委任状または担当者選任文書、その他投資家に関連する各種書類が必要となります。
Q4. 店舗の立地は、会社設立前と設立後のどちらで確認すべきですか?
A: 小売事業モデルの場合、立地の精査は「投資計画の策定段階(会社設立前)」から行うべきです。予定している店舗モデルに対して敷地が実質的に適合するかを事前に評価することで、賃貸契約の締結や改装投資の後に生じるリスクやトラブルを未然に防ぐことができます。
Green Sun Vietnamは、日本企業のベトナム進出および事業運営を総合的にサポートします。
投資モデルの検討や会社設立から、実際の事業運営に必要な条件整備に至るまで、企業は多岐にわたる手続きや業務を並行して調整しなければなりません。Green Sun Vietnamは、ベトナム国内における各種企業支援サービスを通じて、日本企業によるプロジェクトの体系的な準備と円滑な事業展開をサポートいたします。
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ホーチミン支店コンサルタント
ダン・バオ・ファン
専門分野
- 投資
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- M&Aコンサルティング
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