ベトナムの飲食市場は、日本企業にとって依然として有望な投資分野の一つです。しかし、外資系飲食店の立ち上げにおいては、一般的な会社設立案件とは異なり、投資手続きを完了するだけで開業準備が整うわけではありません。実務上は、投資登録証明書(IRC)および企業登録証明書(ERC)の取得に加え、店舗物件の適法性、厨房設計、食品安全衛生、消防・防災、排煙・臭気対策、環境対応など、営業許可や継続的な店舗運営に直結する条件を並行して確認・整備する必要があります。
本稿では、ホーチミン市において日本法人が100%出資で飲食事業会社を設立した案件を題材として、ベトナムで外資系飲食店を開業する際に留意すべき法的・実務的論点を整理します。特に重要なのは、「会社を設立すること」自体ではなく、「設立後、適法かつ安定的に営業を開始できる状態まで到達できるか」という観点です。

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Foreign-owned food and beverage company establishment in Vietnam

1. 案件概要

本件の投資家は日本国内の法人であり、ホーチミン市において100%外資の現地法人を設立し、店内飲食を中心とするレストラン事業を展開する計画でした。会社形態は一人有限責任会社とし、総投資資本金および定款資本金は50億VNDです。

表面的には、外国投資家による典型的な飲食店進出案件に見えます。しかし、法的観点から本件を精査すると、論点は単なるIRC・ERCの取得にとどまりません。むしろ、事業範囲の設定、店舗物件の適格性、厨房レイアウトの実現可能性、食品安全衛生および消防条件の充足など、営業開始後の適法運営を左右する要素こそが本件の核心でした。

2. 事業範囲の設定は設立実務の出発点

外資系企業がベトナムで飲食店を運営する場合、最初に整理すべきは事業範囲です。飲食店経営、契約に基づく飲食サービス、その他の飲食サービス、飲料提供サービスといった内容を、実際の営業形態に即して適切に設計しなければなりません。この設計が不十分な場合、設立後に業種追加や修正が必要となり、結果的にスケジュールやコスト面で不利益が生じる可能性があります。

実務上、投資家が誤解しやすいのは、「飲食店」として会社を設立すれば、その周辺業務を当然に実施できるとは限らないという点です。たとえば、店内での酒類提供、たばこ販売、娯楽要素を伴う営業形態などは、別個の許認可や追加的な法的検討を要する場合があります。したがって、設立段階では、現時点で実施するコア事業を明確に限定しつつ、将来的な事業拡張の可能性も見据えて、過不足のない事業範囲を設計することが重要です。

3. 飲食店案件では、物件選定が法的リスク管理の中心となる

飲食店案件において、物件は単なる事業所在地ではありません。営業許可取得および営業継続の可否を左右する、法的・技術的な前提条件です。本件でも、候補物件について、商業利用の適法性、飲食用途への適合性、排煙・脱臭設備の導入可否、煙突の設置可能性、グリーストラップの確保、加熱調理設備への対応可能性などを、初期段階から確認する必要がありました。

この点は、ベトナムで飲食店を開業する投資家にとって最も重要な留意点の一つです。立地条件や賃料条件が優れていても、食品安全衛生や消防上の要件を充足できない物件であれば、営業開始前に大規模な追加工事、レイアウト変更、さらには物件の再選定が必要となるおそれがあります。つまり、会社設立を先行させ、物件の適法性確認を後回しにする進め方は、法務・事業両面において高いリスクを伴います。

Legal support for foreign-owned restaurant company in Vietnam

4. 会社設立手続きはあくまで第一段階にすぎない

本件の設立手続き自体は、ベトナムにおける一般的な外資系企業設立の流れに従って進められました。具体的には、日本側法人書類の収集、必要書類の領事認証、ベトナム語翻訳および公証を経て、IRC(投資登録証明書)とERC(企業登録証明書)の申請・取得へと進みます。

その後、以下のような手続きを順次実施することになります。

  • 会社印関連の整備および企業登録内容の公表
  • 直接投資口座(DICA)の開設と出資金の送金・払込み
  • 税務初期設定、電子署名、電子インボイス導入準備
  • 労務関連手続き など

しかし、飲食業案件においては、これらの会社法・投資法上の手続きが完了したとしても、すぐに営業が可能となるわけではありません。IRCおよびERCは、あくまで投資主体と法人格を適法に形成するための基礎にすぎず、実際の店舗運営に必要な各種条件の充足は、その後に別途検討・実行すべき課題として残ります。

5. 営業開始の可否を決めるのは、設立後の許認可・設備対応

本件において実務上の重点となったのは、会社設立後の営業条件整備です。具体的には、以下の3つの側面から要件を満たす必要がありました。

  • 食品安全衛生への対応 適格施設として認められるためには、厨房を「一方通行の動線原則」に基づいて設計し、食材の受入、一次処理、調理、保管、提供に至る工程を衛生的かつ合理的に配置する必要があります。加えて、食品に直接接触する従業員の健康管理や、必要な知識要件への対応も求められます。
  • 消防・防災条件への対応 飲食店は火気・熱機器を使用するため、消防対応が不可欠です。店舗規模や設備内容に応じて、消防設備の設置、設計審査、受入検査などの対応が必要となる可能性があります。
  • 環境および近隣対策 排煙・換気、臭気対策、排水・油脂分離(グリーストラップ)、廃棄物処理といった技術的条件の整備は、営業許可の取得だけでなく、近隣トラブルを未然に防ぐためにも重要です。

言い換えれば、飲食店案件における法的支援とは、単に申請書類を整えることではありません。物件条件、設備計画、許認可要件を相互に整合させ、実際に「営業可能な状態」へ導くことこそが、実務上の本質です。

6. 本件から導かれる実務上の示唆

本事例からわかるのは、外資系飲食店の進出支援において、会社設立と営業準備を分断してはならないという点です。投資家が「IRC・ERCの取得をもって案件の主要部分が完了した」と誤解してしまうと、その後の店舗工事、許認可の取得、設備是正などの段階で、想定外の時間的・経済的負担に直面するおそれがあります。
したがって、ベトナムで飲食店を開業する場合には、設立手続きや事業範囲の設計、物件確認、さらには設備・許認可への対応などを、一つのプロジェクトとして統合的に管理することが不可欠です。特に日本企業にとっては、日本側の書類対応とベトナム現地での実務との間に認識のズレが生じやすいため、日本語での継続的な助言のもと、法務と実務の双方を連携させながら進める体制が重要となります。

Case study of F&B company registration in Vietnam

7. まとめ

ホーチミン市における本件は、100%外資による飲食会社設立に際し、会社設立手続きのみならず、営業開始に必要な実体的条件を初期段階から併せて整理したことに大きな意義があります。ベトナムでの飲食店開業において真に重要なのは、法人設立そのものではなく、「設立後に適法かつ継続的に営業できる事業基盤を構築すること」です。


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ホーチミン支店コンサルタント

ダン・バオ・ファン


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