ベトナムは、生産拠点の拡大や新規市場開拓を目指す日本企業にとって、依然として魅力的な市場として注目されています。しかし、実際にはベトナムでの会社設立は、単に書類を提出するだけで完了するものではありません。
投資家は、進出形態の選択から業種・拠点の選定、さらにはライセンス取得後の諸手続きまで、多岐にわたる準備が必要です。本記事では、JETRO(日本貿易振興機構)の指針をベースに、現行の法規制と実務上の留意点を踏まえた「ベトナム会社設立の流れ」を分かりやすく解説します。

1. なぜ日本企業はベトナムでの会社設立を検討するのか?
近年、ベトナムは市場規模の拡大、サプライチェーンにおける戦略的拠点としての重要性、そして競争力のある運営コストを背景に、日本企業にとって極めて有力な投資先となっています。
一方で、行政手続きの煩雑さや市場参入条件の厳格さ、地方自治体による規則運用の差異などから、慎重な姿勢を見せる投資家も少なくありません。そのため、単なる法的要約に留まらず、「何から着手し、どの書類を準備し、リスクを最小限に抑えるために何に注意すべきか」を明確にした実務的なチェックリストが求められています。
2. 設立準備の前に:検討すべき5つの重要項目
本格的な書類準備に入る前に、投資家として以下の5つの事項を明確にしておく必要があります。
2.1. 進出形態の選択
投資目的に応じて、最適な形態を検討します。
・駐在員事務所 (Representative Office):市場調査や広報活動、本社との連絡業務に適していますが、直接収益を上げる営業活動は禁止されています。
・現地の法人設立 (Foreign-Invested Enterprise):長期的な製造・販売・サービス提供を行うための一般的な形態です。
・持分譲渡・株式取得 (M&A):既存のベトナム企業の経営権を取得し、迅速な市場参入を図る場合に有効です。
・事業協力契約 (BCC):新たな法人を設立せず、現地のパートナー企業と共同事業を行うモデルです。
2.2. 対象業種における外資規制の確認
外資投資家に対して、すべての業種が等しく開放されているわけではありません。以下の確認が必須です。
・外資100%での設立が認められる業種か。
・外資の出資比率に制限(合弁義務など)がある業種か。
・設立後に追加で「副次ライセンス(サブライセンス)」の取得が必要な業種か。
2.3. 拠点(立地)の選定
拠点の選定は、以下の要素に直結する重要な決断です。
・事業ライセンス取得の可否。
・環境規制や消防基準の遵守状況。
・投資優遇措置(法人税減免など)の有無。 製造業であれば工業団地や輸出加工区(EPZ)が有力候補となり、商業・サービス業であれば、賃貸オフィスの「使用目的」がライセンス登録に適合しているかを慎重に確認する必要があります。
2.4. 法定代表者の選任
法定代表者は、企業の法的取引や行政手続きにおいて最終的な責任を負う人物です。
・誰を代表者に選任するか(複数選任も可能)。
・その人物がベトナムに居住するかどうか(居住要件の確認)。
・署名権限や銀行口座管理、税務署名などの権限委譲をどのように運用するか。
2.5. 財務計画の確定
以下の詳細を事前に確定させ、資金調達スケジュールを立てる必要があります。
・定款資本金 (Charter Capital) の額。
・資本金の払込スケジュール(原則、ライセンス発行から90日以内)。
・ベトナムへの送金ルートおよび投資専用口座(DICAなど)の開設。

3. ベトナム会社設立の流れ:ステップバイステップ
以下は、2020年投資法および2020年企業法に基づき、JETROベトナムの指針等を踏まえた一般的な「ベトナム会社設立の流れ」です。
・ステップ1:会社形態と事業範囲の決定
有限責任会社(1人または2人以上)か株式会社かを選択します。多くの日本企業は、意思決定の速さとガバナンスのしやすさから「有限責任会社」を選択する傾向にあります。
・ステップ2:市場参入条件の確認
外資禁止・制限業種リスト(政令31/2021/ND-CP)に照らし合わせ、出資比率等の条件を確認します。
・ステップ3:法的・財務書類の準備
日本側で準備する書類には「領事認証」が必要となるため、全工程の中で最も時間を要するステップです。
・ステップ4:投資方針承認の取得(対象案件のみ)
大規模プロジェクトや土地使用を伴う案件などが対象となります。
・ステップ5:投資登録証明書 (IRC) の取得
管轄:計画投資局(DPI)、または工業団地管理委員会。法定期間は15営業日ですが、実務上は追加資料の要求等でそれ以上かかるケースが一般的です。
・ステップ6:企業登録証明書 (ERC) の取得
IRC取得後、税務番号および企業コードを取得するための手続きを行います。
・ステップ7:印鑑作成および情報公示
企業が印鑑の形式を決定し、国家企業登録ポータルで公示します。
・ステップ8:銀行口座開設と資本金の払込
直接投資資本金口座(DICA) を開設します。ERC取得後90日以内に、投資家の国外口座からこのDICA口座へ資本金を全額送金する必要があります。
・ステップ9:設立後の諸手続き
初期税務申告、デジタル署名の購入、電子請求書の発行、労働報告、社会保険への加入などを行います。
・ステップ10:サブライセンス(営業許可証)の取得
小売、教育、医療、旅行等の特定業種では、営業開始前に必須となる重要なステップです。
必要書類のまとめ(日本側投資家向け)
| 書類種別 | 詳細内容 | 実務上の留意点(JETRO等の指針参考) |
|---|---|---|
| 投資家(法人)書類 | 履歴事項全部証明書、定款 | 全てベトナム大使館等での領事認証が必須。 |
| 財務能力証明 | 直近2年分の財務諸表、または残高証明書 | 投資資金の裏付けを明確に証明できること。 |
| 拠点(オフィス)関連 | 賃貸借契約書、建物の法的書類 | 有効な地番・税務コードの確認が不可欠。 |
| 代表者関連 | パスポート | 公証コピーまたは領事認証が必要。 |
4. 日本企業が陥りやすい実務上の「盲点」
Green Sun Vietnam のコンサルティング経験に基づき、日本企業が直面しやすいトラブル事例を紹介します。
1. 「90日ルール」の起算点:資本金の払込期限(90日)は、IRCの取得日ではなく「ERCの取得日」から起算します。1日でも遅延すると行政罰の対象となるため、口座開設は迅速に行う必要があります。
2. 不適切なオフィス住所:マンションや集合住宅は原則として本社住所に登録できません。バーチャルオフィスの場合、業種によって税務登録が却下されるリスクがあるため事前確認が必須です。
3. 言語と翻訳の質:全ての書類はベトナム語への翻訳・公証が必要です。法律専門用語を正しく反映していない翻訳は、審査の遅延や差し戻しの最大の原因となります。
4. 小売業のサブライセンス:小売・流通を行う場合、IRC/ERC取得後に商工局から「営業許可証 (Trading License)」を取得する必要があります。これには通常3〜6ヶ月を要するため、事業開始計画に余裕を持たせることが肝要です。
5. 結論
ベトナムでの会社設立は、単なる事務手続きではなく、持続可能なビジネスを築くための重要な第一歩です。JETROベトナムの指針に照らしても、初期段階での綿密な法的準備こそが、将来的な税務リスクや運営上のトラブルを回避するための鍵となります。
もし、ベトナムでの設立手続きが煩雑に感じられる、あるいは言語や商習慣の壁により現地当局との調整に不安がある場合は、実務経験豊富な専門パートナーへの相談を検討されることをお勧めします。
FAQ
Q1. 日本企業はベトナムで外資100%の会社を設立できますか?
はい。原則として製造業や一般的な卸売・小売業の多くで外資100%の所有が認められています。ただし、運送、旅行、広告、不動産などの特定サービス業においては、現地のパートナー企業との合弁が条件となる場合があります。
Q2. 設立までにかかる期間はどのくらいですか?
一般的な目安として、IRC(投資登録証明書)とERC(企業登録証明書)の取得までに30〜45営業日程度を要します。ただし、追加のサブライセンスが必要な業種の場合は、さらに3〜6ヶ月程度の期間を見込む必要があります。
Q3. バーチャルオフィスで登記は可能ですか?
法令上、明確な禁止規定はありません。ただし、その住所が実質的なオフィス機能を持ち、税務当局からの郵便物受領や実地調査(抜き打ち検査等)に適切に対応できる状態である必要があります。業種によっては許可されないケースもあるため、事前確認が不可欠です。
Q4. 設立直後の税務上の注意点はありますか?
ERC取得後、看板の設置やデジタル署名の購入に加え、30日以内に**事業ライセンス税(門牌税)**の申告と納付を行う必要があります。これらを怠ると、税務コードが凍結され、その後の事業活動に支障をきたす恐れがあります。
Green Sun Vietnam は、書類準備の段階から実務に即したアドバイスを提供し、当局との複雑な折衝を全面的にサポートいたします。 ベトナムでの外資企業設立についてより詳しくお知りになりたい方は、以下のリンクより「詳細ガイド資料」の請求および「一括見積もり」をご依頼いただけます。


ホーチミン支店コンサルタント
ダン・バオ・ファン
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