ベトナムIT分野での100%外資系企業設立は、東南アジアへ進出する日本企業にとって有力な選択肢です。しかし、円滑な設立には投資登録証明書(IRC)や企業登録証明書(ERC)の取得、設立後の諸手続きなど、ベトナム特有の法規制を確実に遵守する必要があります。
本記事では、Green Sun Vietnamが支援したホーチミン市での100%日系IT企業設立事例を紹介します。資本金50億ドンの「一人有限責任会社」として進めた本件では、IRC・ERC取得やDICA(直接投資資本口座)経由の出資手続きだけでなく、ITサービス範囲の正確な定義が成功の鍵でした。通信や金融などの「条件付き事業分野」への誤分類を避けることで、スムーズな申請と設立後の安定した事業運営を実現しています。

1. プロジェクトの背景:ホーチミン市でのIT分野・完全外資系企業設立(日本法人による投資)
本プロジェクトでGreen Sun Vietnamは、日本法人によるホーチミン市での完全外資系企業(IT分野)の設立手続きを支援しました。 設立企業は、総投資額50億ドンの「一人有限責任会社」です。2025年投資法(2026年3月1日施行)および2020年企業法に基づく「新規経済組織の設立」という投資形態を採用しました。 これは日本企業のベトナム直接投資(FDI)で一般的なモデルですが、IT分野特有の性質上、申請書類の作成段階から十分な考慮が必要です。具体的には、将来「条件付き事業分野」へ事業拡大する際の手続きや特別許認可の取得リスクを最小限に抑えるため、事業内容やコードを正確に定義する必要がありました。 そのため、単なる投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)の取得要件を満たすだけでなく、長期的な事業運営と拡大に向けた強固な法的基盤の構築を重視しています。
2. 法的リスク回避のため、初期段階から事業範囲を明確化する
Green Sun Vietnamのサポートのもと、実際のビジネスモデルとベトナム法令に合致した事業範囲を明確化しました。提案した投資書類には以下の活動が含まれます。
・カスタムソフトウェア開発
・自社開発ソフトウェアの公開
・ITソリューションコンサルティング
・システム管理および技術保守
・データ処理、保存、分析
・サーバー、ワークステーション、クラウドコンピューティング基盤に関連する技術インフラサービスの提供
これに基づき、ベトナム標準産業分類(VSIC)のコード(6201、5820、6209、6202、6311)を登録しました。 IT分野のFDI企業において、事業内容の定義は事業登録だけでなく、投資審査や設立後の運営にも直結します。本件では、以下の「条件付き事業分野」に該当する活動は登録から除外しました。
・公衆ネットワークインフラに関わる電気通信サービス
・決済仲介サービス
・金融・銀行サービス
・電気通信ネットワーク上でのコンテンツ提供サービス
これらの分野には特定の法的規制や許認可条件が課されます。投資書類、会社概要、Webサイト等に広範すぎる記載や不正確な用語があると、規制当局から「条件付き事業分野」と見なされるリスクがあります。その結果、追加説明や書類修正、専門許認可の取得といった追加手続きが発生する恐れがあります。 したがって、IT外資系企業の設立時は、申請段階から事業範囲を正確に定義することが極めて重要です。これにより、実態を反映しつつ法的要件を満たし、将来のサービス拡大に向けた安全な基盤を築くことができます。
(注:2025年11月15日より、経済分野分類システムは決定36/2025/QĐ-TTgに基づき更新され、決定27/2018/QĐ-TTgに代わります。ITコードは概ね変更ありませんが、デジタル技術分野の新コードが追加されました。登録時は最新リストをご参照ください。)
3. 会社設立のロードマップ
本プロジェクトは、ベトナムにおけるFDI(外国直接投資)企業の標準的な設立手順に従って進められます。
👉まず、日本側の投資家は、法人格や資金力の証明、海外投資またはベトナムでの会社設立に関する決定書、委任状などの法的書類を準備します。IRCの申請前に、全書類の領事認証(または同等の手続き)を受け、ベトナム語への翻訳・公証を完了させる必要があります。
👉次に、IRCの申請手続きを行います。2025年投資法および政令239/2025/ND-CPに基づき、発行までの所要期間が短縮されました。投資方針の承認が不要なプロジェクトの場合、審査期間は10営業日(従来の15営業日から短縮)となります。実務上は、書類補正の時間を含め通常15~25営業日を要します。続く企業登録証明書(ERC)の発行は、政令168/2025/ND-CPに基づき約3~5営業日となります。
👉ERC取得後、企業は日本からの出資金を受け入れる直接投資資本口座(DICA)を開設し、法定の90日以内に出資を完了させます。
会社設立後は、税務、電子署名、電子インボイス、労働関連コンプライアンス、投資報告などの各種手続きを進めます。

4. 設立後の優先事項:データ、セキュリティ、知的財産
スパやジム等の実店舗とは異なり、IT企業では消防設備や特定施設要件への対応は主眼ではありません。特筆すべきは、2026年1月1日より正式施行される「2025年デジタル技術産業法(法律番号71/2025/QH15)」です。同法は、ソフトウェア開発、デジタルサービス、データセンター、クラウド、AI、デジタル資産などのデジタル技術分野を対象とした法的枠組みを定めています。外資系IT企業にとっては投資優遇措置などの機会をもたらす反面、設立当初から対応すべき新たなコンプライアンス要件も課されます。
そのため、設立後は技術系企業に特化したコンプライアンス体制の構築に重点を置く必要があります。具体的には、以下の分野への留意が求められます。
・個人情報保護
・サイバーセキュリティ
・システムアクセス管理
・ソースコードのセキュリティ・プロトコル
・自社開発ソフトウェアに関する知的財産権
これらは、オフショア開発や海外顧客向け製品開発、パートナー企業のデータ処理を行う際に特に重要です。長期的には、Eコマース、デジタルプラットフォーム、オンラインゲーム、決済統合サービスなどへ事業拡大する場合、追加の届出や特定の許認可取得義務が生じる可能性があります。したがって、初期段階での法的体制は、現在の事業運営を支えつつ、将来の拡大にも対応できる柔軟かつ明確な構造で構築する必要があります。
5. 日本企業にとっての重要なポイント
本事例が示す通り、ベトナムでのIT企業設立は、単なる投資登録証明書(IRC)や企業登録証明書(ERC)の取得だけでは不十分です。サービス範囲の正確な定義、適切な事業活動コードの選定、日本側での綿密な書類準備、そして直接投資資本口座(DICA)を通じた出資スケジュールの厳格な管理が極めて重要となります。
さらにテクノロジー企業は、事後対応ではなく、事業の初期段階からデータ保護、システムセキュリティ、知的財産保護の体制を法的枠組みに組み込んでおくべきです。日本企業にとってこうした取り組みは、単なるベトナム法への適合にとどまらず、顧客やパートナーとの長期的な信頼関係を築くための強固な基盤となります。
6. 結論
本事例におけるコンサルティングの価値は、単なるIT企業の設立手続きにとどまりません。事業範囲の策定、FDI(直接投資)のロードマップ作成、出資スキームの構築から、データコンプライアンスやセキュリティ体制の整備に至るまで、初期段階から最適な企業体制の構築を支援することに真価があります。これにより、ベトナム市場での安定した事業運営とスムーズな事業拡大が可能となります。
7. よくあるご質問(FAQ)
1. 日本企業がベトナムでIT企業を設立する際、IRC(投資登録証明書)は必要ですか?
はい、必要です。FDI(外国直接投資)による100%日系企業を設立する場合、法定の例外を除き、ERC(企業登録証明書)の取得前にIRCを取得する必要があります。
2. 外資系IT企業は、ソフトウェア開発やクラウドサービスを提供できますか?
はい、適切な事業範囲を登録すれば可能です。現行規制に従い、ソフトウェア開発、ITコンサルティング、データ処理、クラウド基盤提供などを行えます。ただし、電気通信、決済仲介、金融などの「条件付き事業分野」は、追加要件を満たし専門ライセンスを取得する必要があります。
3. FDI企業の投資登録において、ITサービスの範囲を正確に記載する理由は何ですか?
事業範囲の記載は、審査プロセスや設立後の運営に直結するためです。広範すぎたり曖昧な表現を用いると、当局から説明や修正を求められたり、想定外の専門ライセンス取得を要求されたりするリスクがあります。
4. 新設のIT企業は、個人データ保護への対応が必要ですか?
はい、必須です。2025年個人データ保護法(2026年1月1日施行)により、同意取得、漏洩時の通知、技術的保護措置などの厳格な要件が課されます。特にアウトソーシングや顧客データを扱う場合、設立当初からデータ保護やアクセス管理、知的財産保護の体制構築が不可欠です。
5. ベトナムでの100%日系IT企業の設立には、どのくらいの期間がかかりますか?
政令239/2025/ND-CPに基づくIRCの法定審査期間は10営業日、ERCの発行は約3~5営業日です。ただし、書類準備や当局の審査状況によるため、実務上の所要期間は通常2〜3ヶ月程度を見込む必要があります。
6. IT分野における現地法人、支店、駐在員事務所の違いは何ですか?
現地法人(独立した法人格)は直接的な事業運営(契約締結、請求等)が可能で、開発やアウトソーシングに最適です。支店は親会社の事業を行う従属機関です。駐在員事務所は連絡や市場調査に限定され直接的な営利活動はできないため、進出前の事前調査に適しています。
7. 外資系IT企業はデータセンターやクラウドサービスを運営できますか?
はい、可能です。2023年電気通信法により、データセンターやクラウドサービスにおける外資100%出資が認められています。ただし、2025年デジタル技術産業法の新規則や、個人データ保護法における国内データ保存要件には留意が必要です。
ベトナム市場への事業拡大をご検討の際は、ぜひ当社へご相談ください。 当社は、法人設立、支店・駐在員事務所の開設、各種許認可の取得から、個人情報保護、知的財産、法務アドバイザリーまで、外資系企業のベトナム進出を包括的にサポートする専門コンサルティングファームです。


ホーチミン支店コンサルタント
ダン・バオ・ファン
専門分野
- 投資
- ビジネス・貿易
- M&Aコンサルティング
積年の経験 : 10年以上
