外国人投資家がベトナムで医療機器事業の設立にあたっては、一般的な投資手続きのみでは完結しません。医療機器は他の多くの商品分野とは異なり、厳格で専門的な規制の対象となります。そのため企業は、事業範囲の策定にとどまらず、製品の流通要件、保管倉庫、技術人材の確保、さらには製品を市場に投入した後の監督・確認体制に至るまで、あらかじめ適切に整備しておく必要があります。
本件では、Green Sun Vietnamが日本法人によるホーチミン市での100%外資系医療機器会社の設立を全面支援いたしました。会社形態は一人有限責任会社とし、定款資本金は50億VNDです。事業モデルには、流通要件を満たした医療機器の輸入・卸売・小売に加え、設置、取扱説明、保証、保守メンテナンス、ならびに基準に基づく校正業務が含まれています。
本プロジェクトにおいて重要だったのは、投資登録証明書(IRC)や企業登録証明書(ERC)の取得、直接投資資本口座(DICA)を通じた出資完了といった「表面的な手続き」だけではありません。製品を適法に輸入・流通・販売できるよう、医療機器事業に適合した事業体制を設立当初からしっかりと構築したことが、成功の最大のポイントでした。

1. 医療機器事業の設立段階からプロジェクトの背景と事業範囲を明確にする重要性
本プロジェクトにおける重要なポイントの一つは、企業の事業内容を設立当初から正確に定義することです。
申請書類上の事業計画において、会社は流通要件を満たした医療機器の輸入・流通・販売を行うことができます。さらに、機器の種類に応じて、卸売・小売・設置・取扱説明(操作指導)・保証・保守・校正などの関連業務も実施可能です。
また、届出または流通登録の内容に適合する範囲内であれば、広告宣伝や製品紹介セミナーを実施することも認められています。加えて、保管、輸送、保証対応などの業務については、所定の要件を満たす第三者へ委託することも可能です。
ただし、医療機器事業を行う会社は、診療・治療を行う「医療機関」ではないことを明確に区別する必要があります。医療機器の販売許可のみを根拠として、患者に対する医療行為や処置を実施することは固く禁じられています。
また、法令上の要件を満たしていない製品を流通させることもできません。例えば、有効な流通番号や許可を取得していない場合や、パッケージのベトナム語表示および取扱説明書が法定要件を満たしていない場合などがこれに該当します。
そのため、医療機器事業と医療サービス提供との明確な境界線は、会社設立時の申請書類において正確に示し、その後の事業運営においても一貫して維持・遵守していく必要があります。
2. 製品の流通要件:医療機器事業設立における中核要素
一般的な商品とは異なり、医療機器は会社を設立するのみでは、すぐに輸入・販売できるわけではありません。
主な法的根拠は、医療機器の管理に関する政令98/2021/NĐ-CP(政令07/2023/NĐ-CP、政令96/2023/NĐ-CP、政令04/2025/NĐ-CPにより一部改正・補足)です。さらに、最新の通達として2026年7月1日施行の保健省通達24/2026/TT-BYTなどが適用されます。
現行の法規定に基づき、医療機器はリスクレベルに応じてA、B、C、Dの4つのクラスに分類されます。
・クラスAおよびBの医療機器については、適用基準の公表手続きを行います。
・クラスCおよびDの医療機器については、規定に基づき流通登録手続きを行い、流通番号を取得する必要があります。
注意点: 現在、クラスC・Dの医療機器に発行される流通番号は原則として有効期限がありません(感染症対策、自然災害、災害対応を目的として緊急発行されるものを除く)。
したがって、プロジェクトを実際に展開できるかどうかは、IRCやERCの取得といった会社設立手続きの成否だけで決まるわけではありません。各製品グループに関して、専門分野の申請書類をどこまで適切に準備できているかに直接左右されます。
会社設立が完了していても、製品が流通要件を満たしていなければ、計画どおりに市場へ投入することは不可能です。 そのため、プロジェクト準備の段階から、輸入・販売を予定している医療機器のリストを作成し、以下の点を明確にしておくことが重要です。
・該当する医療機器のクラス分類(A・B・C・D)
・必要な手続きの種別(公表手続き、または流通登録手続き)
・日本の製造者側(メーカー)で準備すべき必要書類
・ベトナム語の製品ラベルおよび取扱説明書の作成・準備方法
・輸入計画を開始する最適なタイミング
このように事前準備を徹底することで、会社設立のスケジュールと製品の市場投入スケジュールをシームレスに連動させることができ、別々に進行する場合と比較して、より実務的かつ効率的にプロジェクトを進めることが可能となります。
3. 日本人投資家による会社設立と出資の流れ

本プロジェクトは、ベトナムにおける外資系企業の一般的な設立プロセスに沿って進められました。
まず、日本人投資家は、法人関係書類、財務能力を証明する資料、その他の関連書類を準備します。ベトナム国内で提出する書類については、法定要件に従って領事認証を行い、ベトナム語への翻訳および公証手続きを完了させる必要があります。
その後、投資登録証明書(IRC)の取得手続きを行います。2025年投資法および政令239/2025/NĐ-CPに基づき、投資方針の承認を必要としないプロジェクトについては、IRCの発行期限が従来の15営業日から10営業日に短縮されました。実務上は、関係当局への説明や追加書類の提出に要する期間を含めると、通常15~25営業日程度となります。
IRC取得後、企業登録証明書(ERC)の取得手続きに進みます。企業登録に関する政令168/2025/NĐ-CPに基づき、ERCの発行には約3~5営業日を要します。
会社設立後は、直接投資資本口座(DICA)を開設し、日本からの出資金を受け入れ、プロジェクト計画に従ってERC発行日から90日以内に出資を完了させます。
さらに、これらと並行して、以下のような会社設立後の初期手続きも実施します。
・初期税務申告および登録
・電子署名(トークン)の取得
・電子インボイスの発行登録
・労務関連手続き(労働登録など)
・社会保険の加入手続き
・投資プロジェクトの実施状況に関する定期報告
ただし、医療機器事業の場合、これらの一般的な設立手続きを完了したのみでは、会社運営の「法的な箱(基盤)」が整ったにすぎません。実際に事業を適法かつ円滑に運営できるかどうかは、製品要件、保管倉庫、技術人材、社内管理プロセスなど、専門分野に特化した条件が十分に整備されているかどうかに大きく左右されます。
4. 医療機器事業の運営を左右する保管倉庫、技術人材、社内プロセス
投資および会社設立に関する一般的な手続きを完了した後、企業は「医療機器」という特殊な商品の特性に応じた運営体制を構築しなければなりません。
法規定上、企業は医療機器の保管要件を満たす保管倉庫および輸送手段を確保することが求められます。自社でこれらを用意しない場合は、要件を満たす第三者へ委託することも可能ですが、その際は両者間で明確な業務委託契約を締結する必要があります。
また、政令98/2021/NĐ-CP第40条に基づき、クラスB、C、Dの医療機器を取り扱う企業は、技術、医療、薬学、化学、生物学、あるいは取り扱う機器の専門分野を専攻した、短期大学卒業以上の資格を有する「技術責任者」を少なくとも1名配置することが義務付けられています(クラスAのみを取り扱う場合は免除されます)。
この人的要件は、企業が単に製品を販売するにとどまらず、設置、取扱説明(操作指導)、保証、保守メンテナンス、校正といったアフターサービスを提供する場合には特に重要となります。
さらに、物理的なインフラ(保管倉庫)や技術人材に加えて、企業は事業運営に必要な社内プロセスも整備しなければなりません。具体的には、以下のような管理手順が含まれます。
・入出荷管理
・品質管理
・製品のトレーサビリティ(追跡管理)
・苦情対応および保証対応
・必要に応じた製品回収(リコール)手順
これらは、設立時や輸入時の手続きにのみ重点を置くのではなく、製品を市場へ投入した後も、企業が継続して適切な管理体制を維持していくために極めて重要な要素です。
5. 医療機器事業の設立において管理すべきリスクと学ぶべきポイント
本事例から、ベトナムにおける医療機器事業の設立では、さまざまな段階で特有のリスクが発生する可能性があることが分かります。具体的には、以下の3つのリスクに注意を払う必要があります。
・リスク1:出資期限および出資方法の違反 :期限内に出資を完了できない、あるいは直接投資資本口座(DICA)を通じた適切な方法で出資を行わないケースです。この点は、会社設立直後から厳格に管理する必要があります。
・リスク2:製品要件を満たさないままの事業推進 :製品関連の許認可(公表・流通登録など)が整っていない段階で、輸入や販売の計画を先行させてしまうケースです。この場合、会社自体は適法に設立されていても、実質的に製品を市場に投入することができません。
・リスク3:実態と乖離した運営インフラ :保管倉庫、製品ラベル(ベトナム語表示)、ベトナム語の取扱説明書、および技術人材などが、実際の事業内容や法定要件を満たしていないケースです。
また、企業が一般消費者向けの直接販売(B2C)へ事業を拡大する場合や、X線発生装置などの特定医療機器を取り扱う場合には、追加の要件や専門的な許認可がさらに必要となる点にも留意が必要です。
そのため、本事例から得られる最大の教訓は、「会社設立プロセス」と「製品のコンプライアンス準備」を別々のものとして捉えないことです。 事業を確実に成功させるためには、以下の「2つのロードマップ」を設立当初から連動させ、並行して進める必要があります。
【ルート1:投資・会社設立手続きのロードマップ】 日本人投資家
(準備) → IRC取得 → ERC取得 → DICA開設 → 資本金出資 → 会社設立後の各種手続き
取扱医療機器リストの策定 → クラス分類 → 適用基準公表/流通登録 → ラベル・取扱説明書の準備 → 保管要件の確保 → 流通・輸入 → 市場投入後の監督体制構築
この2つのロードマップを同時進行で計画・実行することで、「会社は設立できたが製品を販売できない」、あるいは「製品の準備は整ったが、倉庫や人材などの運営体制が違法状態になっている」といった深刻なリスクを未然に防ぐことができます。
まとめ:ベトナムでの医療機器事業の設立を成功させるために
本事例から、日本人投資家によるベトナムでの医療機器事業の設立支援は、単に投資関連の手続きを完了させるだけでは不十分であることが分かります。
最も重要なのは、外国投資法と医療機器分野の専門的な法令遵守(コンプライアンス)を一体的に進めることです。製品のクラス分類、適用基準の公表または流通登録から、保管倉庫の確保、技術人材の配置、製品ラベルの準備、保証体制、さらには市場投入後の監督・確認体制に至るまで、一連の要件をシームレスに連動させて準備する必要があります。
これらの要素をプロジェクトの初期段階から並行して整備することで、企業は計画どおりかつ安定的に製品を市場へ投入し、事業を軌道に乗せるための強固な基盤を構築することができます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 日本人投資家は、ベトナムで医療機器事業を行う100%外資系企業を設立することは可能ですか?
A. はい、可能です。日本法人は、ホーチミン市等で100%外資系医療機器会社(一人有限責任会社など)を設立し、登録した事業範囲に従って医療機器の輸入、流通、および関連サービスを展開することができます。
Q2. クラスA、B、C、Dの医療機器にはそれぞれどのような手続きが必要ですか?
A. クラスAおよびBの医療機器については「適用基準の公表手続き」を行います。一方、クラスCおよびDの医療機器については、政令98/2021/NĐ-CP等に基づき「流通登録」を行い、流通番号を取得する必要があります。
Q3. IRCとERCを取得してから、実際に医療機器を販売開始するまでどのくらいの期間がかかりますか?
A. 会社設立手続き(IRC、ERC、DICA開設)自体は通常約2~3か月で完了しますが、取得後すぐに販売できるわけではありません。これと並行して行う製品関連手続きとして、クラスA・Bの公表は数週間程度で完了するケースが多いですが、クラスC・Dの流通登録には医療機器の種類によって数か月から1年以上を要する場合があります。そのため、会社設立と並行して早期に製品関連書類の準備を進めることが極めて重要です。
Q4. 医療機器会社は、必ず自社で保管倉庫を用意する必要がありますか?
A. 必ずしも自社で保管倉庫を所有・賃貸する必要はありません。法定要件を満たす第三者の専門業者へ保管・輸送業務を委託することが可能です。ただし、委託先が適切な要件を満たしていることを確認した上で、両者間で明確な業務委託契約を締結する必要があります。
Q5. 医療機器会社には「技術責任者」の配置が必要ですか?
A. クラスB、C、Dの医療機器を取り扱う場合、技術、医療、薬学、化学、生物学など、取り扱う医療機器に適した分野を専攻し、短期大学卒業以上の資格を有する技術責任者を少なくとも1名配置することが義務付けられています(クラスAのみを取り扱う場合は免除されます)。
Q6. 医療機器分野における「現地法人(会社)」、「支店」、「駐在員事務所」の主な違いは何ですか?
A. 現地法人(会社)は、医療機器の輸入・流通を直接行い、適用基準の公表や流通登録の「名義人」となることができます。支店は会社に属する従属組織として本社の事業活動を代行できます。一方、駐在員事務所は市場調査や連絡業務に限定され、直接的な営利事業(輸入・販売)を行うことはできません。ただし例外として、外国企業の駐在員事務所は、医療機器の所有者(メーカー等)から委任を受けた場合に限り、適用基準の公表や流通登録の「名義人」となることが認められています。
ベトナムで医療機器事業の設立を計画されている場合、IRCとERCの取得は最初のステップにすぎません。 製品リストの精査、流通要件の確認、輸入・流通モデルの構築、保管倉庫や技術人材の確保、そして社内運営プロセスの整備について、プロジェクトの準備段階から一体的かつ戦略的に検討する必要があります。
Green Sun Vietnamでは、日本人投資家および日本企業様に対し、会社設立、支店・駐在員事務所の開設、投資手続き代行はもちろん、医療機器の公表・流通登録、さらにベトナムで適法に事業を運営するための各種法的要件のコンサルティングまで、一連のプロセスをワンストップでサポートしております。
ベトナムでの医療機器事業に最適なビジネスモデルやプロジェクトのロードマップ構築について、ぜひお気軽にGreen Sun Vietnamまでお問い合わせください。


ホーチミン支店コンサルタント
ダン・バオ・ファン
専門分野
- 投資
- ビジネス・貿易
- M&Aコンサルティング
積年の経験 : 10年以上
